御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
以前の労働環境と比べると今の美果の仕事はあまりに恵まれすぎている。破格の給料はもちろんのこと、十分な社会保険に加入させてもらえて、残業もほとんどない。過酷な重労働をしているわけでもなければ、精神的に辛いこともない。
翔にももちろん言えることだが、なんの功績も資格もない美果を雇うと決めた人は、本当にそれでいいのだろうかと疑問に思うほどだ。
「あれ……まさか……?」
「お、察しがいいね! 美果さんを雇用するために規定の上限いっぱいまで給与の調整をしたのは希で、美果さんの採用を決定したのは僕でーす」
「!?」
疑問に感じたことを訊ねようとすると、美果の考えを先読みしたらしい煌がにへらっと表情を緩ませた。美果の疑問を肯定する明るい言葉に驚き、先ほどまで項垂れて歪んでいた背筋がシャンと伸びる。
「あああありがとうございます、いつもお世話になってます!」
「それはこっちの台詞よ。いつも翔兄さんのお世話をしてくれてありがとう」
美果と煌のやりとりを見ていた希がにっこりと優しい笑顔を浮かべる。ただでさえ高身長の希がヒールを履くとこの中の誰よりも目線が高いが、嬉しそうな笑顔はとても愛らしかった。
どうやら二人は美果が翔の家政婦をすることにかなり協力的らしい。先ほど誠人が美果をサポートする人は自分たちだけじゃないと口にしたのを思い出す。
だがほっこりと安心する美果に希が告げて来たのは、思いもよらない一言だった。