御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
「出来ればこのまま、一生翔兄さんの面倒を見て欲しいところなのだけど」
思いがけない希望に、思わず「え?」と笑顔が凍る。
今、なんて?
「実を言うと、僕も希も天ケ瀬の後継にはなりたくないんだよね」
美果が凍結する様子を見て、煌が肩を竦めながら呟く。美果がぎこちない唇の動きで「そうなんですか?」と聞き返すと、二人は首がもげそうなほど大きく深く頷いた。
「私は仕事に生きたいの。結婚するつもりもないし、人付き合いも最低限しかしたくないのよね」
「僕はずっと遊んでたいかな。でもほら、天ケ瀬の社長がふらふらしてるなんて外聞悪いでしょ。だから僕も後は継ぎたくないなぁ」
「煌くん、社長じゃなくても遊びすぎはダメだと思うけどナ」
「やだぁ、誠人くん小姑みたいなこと言わないで~っ」
誠人の指摘に煌がぶりっ子のように身体を揺らす。二人も翔の幼なじみである誠人と親しいらしく、その様子を見た希も楽しそうに笑っている。
(こ、個性的な人たちだなぁ……翔さんがすごくマトモに思える……)
仕事をしている天ケ瀬翔という人物を客観視して直接的に表現すると『外面を装うことに余念がない二重人格者』だ。もちろん彼にそうする必要性があることも、今の彼にとってはそれが大事な武器であることも理解している。
だから否定するつもりはないし、むしろそれが翔の夢や目標をかなえる鍵となるならば、美果も出来うる限り協力したいと思っている。
そうだとしても少し個性的――と思っていたが、煌と希を見ていれば案外翔はまともなのかもしれない。二人とも翔の苦労を理解しているのかしていないのか、だいぶ自由人だ。