御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
「そのためには兄さんに頑張ってほしいところなんだけどさ。ほら、あの人仕事中に自分を作りまくってる反動なのか、オフになると人が入ってない着ぐるみみたいに動かなくなるじゃん? 基本生活能力は皆無だし」
煌の説明に思わず吹き出しそうになる。中に人が入っていない着ぐるみ……それはいくらなんでもあんまりだと思うが、翔の生活を知る美果は妙に納得できてしまう。
仕事中は完璧な姿を崩さない翔だが、プライベートの彼は自分の身の回りに無頓着だ。何も出来なさすぎて心配になるほどに。
「というわけで、美果さん。兄さんのことお願いね。僕たちに出来ることならなんでも協力するから」
「翔兄さんが家に入れてもいいって言うぐらい気に入ってる人は、美果さんしかいないの。だから翔兄さんを見捨てないであげてね」
「は……はぁ」
二人のキャラクターに圧倒されているうちに、テイよく翔を押し付けられた気がする。なんとなく外堀を埋められていくような心地を味わっていると、ふと後ろから声をかけられた。
「美果」
聞き慣れた声に名前を呼ばれて振り返る。するとそこに佇んでいたのは、たった今まで話題の中心にいた翔だった。
(わ、わ……ぁ)
何気なく振り返った美果だが、背後に立つ翔のいつもと違う姿に思わず言葉を失ってしまう。
久しぶりに見た気がする。彼のことをこんなに深く知る前はこれが普通だった、キラキラ御曹司で完璧な王子様の天ケ瀬翔だ。