御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
どんな味がするのだろう? やっぱり柑橘系かな? とカクテルに気を取られた美果は、結局萌子が最後まで美果を認めなかったことにも、あくまで『家政婦』であることを強調する言い回しばかりしていたことにも気づけないままだった。
「翔さん、ごめんなさい。戻りました」
カクテルを手にして翔の元に戻ると、翔がまた美果の腰を抱き寄せて楽しそうな笑顔を向けてきた。
今夜は『パートナーを大切に扱う天ケ瀬翔』というキャラクターを演じているだけのはずなのに、彼の笑顔は美果を本心から愛おしんでいるかのように甘くて優しい。これは本当に演技なのだろうか、と疑問に思うほどだ。
「それは?」
「有名なバーテンダーさんが作るカクテルだと聞きました」
「ああ。あの人、親父の同級生らしいぞ。親父よりだいぶ若く見えるけどな」
「へえぇ!」
どうやら萌子のいうバーテンダーは、今回の主催である翔の父が直々に呼び寄せた人物らしい。きっと腕は本物なのだろうな、と思いながらカクテルを一口啜った美果は、思わぬ刺激に驚いて一瞬表情を歪めてしまった。
(えっ……これ本当にただのカクテル? 分量間違えてるんじゃ……?)
不味いわけではない。むしろ見た目の通りほのかな酸味とさわやかな柑橘の香りが感じられ、さっぱりとしていて飲みやすい部類のカクテルだ。
だが少しアルコールが強い気がする。喉がカッと焼けるような……ウイスキーやウォッカを入れすぎてしまったのではないかと思うほど強い灼熱感が、ゆっくりと喉を通り過ぎていく。その感覚に、思わず顔を顰める。