御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
国際大会で入賞するほど腕が良く有名なバーテンダーが、こんなにアルコール度数が高くてクセのあるカクテルを、女性客が多いパーティーで提供するのだろうか?
それともこれが萌子のオーダーなのだろうか……と考えていると、腕時計で時刻を確認した翔が美果にそっと声をかけてきた。
「そろそろ疲れただろ。どうする? もうすぐ終わるし、一応上に部屋は取って……美果?」
「え……?」
美果は説明を聞いてしっかり頷いているつもりだったが、ふと言葉を切った翔が心配そうに美果の顔を覗き込んできた。
顔の距離が近いことにドキッとするが、翔の表情には美果の動揺以上の困惑が広がっていく。
「どうした、顔赤いぞ? もしかして酔って……」
「んっ……ぅ」
翔が美果の体温を測ろうと額に手を滑らせてくる。だが翔の細長く骨張った指が肌に触れた瞬間、自分でもびっくりするような甘ったるい吐息が零れた。
驚いた翔が動きを止めて手を引っ込めようとする。
「ん……ぁ……っ」
「美果……?」
しかし手を引いた際に額やこめかみに翔の指先が触れただけで、そこからまた別の熱が生まれる。
風邪の引き始めのようにどんどん体温が上昇して、吐く息にも湿った温度が含まる。身体が急激に火照っていく感覚がする。
「翔さん、ごめんなさい……ちょっと……お手洗いに」
「今行ってきたばかりだろ? 腹壊したのか?」
「ち、違います……!」
翔のデリカシーに欠けた問いかけに頬を膨らませる。