御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
汗だくの状態を人目に晒したくなかった美果は、男性の申し出を丁重に断った。先ほどまで翔のパートナーであるとあえて見せつけていた手前、不格好な状態を人に見られることで翔の評判が下げてはいけないと思ったからだ。
しかしせっかくの親切を美果が断ったことに気を悪くしたのか、男性が強引に美果の肩を掴んできた。
なんとなく今の状態で他人と触れ合いたくなかった美果は、驚いた拍子に男の手を払い退けようとした。しかし。
「! え、な、なに……っ?」
「声を出すな」
美果が振り上げた手は虚しく空を切る。いや、それどころか美果の腕をぱしっと掴んで背後に回った男は、首に腕を回してそのまま美果の口を押さえ込んできた。
突然他人に後ろから抱きつかれる……というよりも、羽交い絞めされたことに恐怖を覚える。カクテルを口にした直後からこんなに身体が火照っているはずなのに、全身に悪寒が走ってぶわりと鳥肌が立つ。
「こっちに来い」
「ちょ……やめ……っ!」
先ほどまで紳士的だったはずの男が、突然乱暴な口調に変わる。さらに上手く力が入らない美果の身体を引きずって、どこかへ連れ去ろうとする。
(こ、怖い……! 逃げたい……けど、力が入らない……)
気色の悪い男の行動に怯えた美果は逃走を図ろうとした。だが熱に支配された身体には力が入らず、おまけに再度手で口を塞がれたせいで声も発せなくなる。
(やだ、助けて……! 翔さん……っ)
男の腕に身体を引きずられた美果は、泣きたい気持ちになった。