御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
「翔、さ……ん」
「美果、大丈夫か? 苦しいよな?」
「身体が……熱いん、です。風邪を、引いたのかも……しれません。移ったら困るので、離れて……」
「アホ。明らかに風邪じゃねぇだろ」
季節は梅雨が明けたばかりの初夏の頃。一般的には季節外れだが、急激な悪寒と発熱と全身倦怠感に見舞われる状態は、症状だけならインフルエンザによく似ている。
移すといけないから離れて、と言いながらもどうしようもなく翔の腕に縋ってしまう。
理由はきっと、それほど怖かったから。不安で怖くて気持ち悪くて……助けにきてくれた翔の存在に安心したから。無意識に名前を呼んでしまうことに、真っ先に翔の存在を求める自分に、翔の傍にいたいと思う気持ちに、気づいてしまったから。
「上に行こう。俺が取った部屋があるから、そこで休め」
「……ん」
美果の頭を一度くしゃりと撫でた翔が、肩を抱いて膝の裏に腕を入れる。そのまま身体を持ち上げられるとお姫様抱っこの状態になると気づいたが、今は恥ずかしさや照れを感じる余裕もない。
触れ合っているだけで安心する。
美果がそんな風に思える相手は、きっと翔だけだ。
(翔さんの身体、温かい……熱い……?)
翔の腕に抱かれて胸に縋ると、触れ合った場所がじんじんと熱い。
密着したところからじんわりと熱が広がるのを感じた美果は、本当は翔が熱いのではなく自分自身の身体が熱いという事実には気付けないまま、彼の腕の中でぼんやりと意識を手放した。