御曹司さま、これは溺愛契約ですか?

「誠人。稲島の娘、なんか変なもの持ってないか? 例えば薬とか、匂いが強いものとか」
『薬? ちょっと待ってよ~』

 誠人の声が聞こえるのは部屋の中央にあるローテーブルの上からだ。どうやらスマートフォンをスピーカーモードに設定し、翔本人は部屋の中を動き回りながら誠人と会話しているらしい。

 履いていたヒールが脱がされていることや濡れたタオルが額に乗せられていたことを考えると、翔は急に体調を崩した美果のために両手を空けた状態で世話をしてくれているのだろう。

「翔さん……」
「! 美果、大丈夫か?」
「……はい」

 ぽつりと名前を呼ぶと、意外とすぐ傍にいたらしい翔がベッドへ駆け寄ってきた。美果の視界に心配そうな表情の翔が突然現れたので、無理に微笑んでみる。だが相変わらず腕は重いし身体が熱い。汗が止まる気配もない。

『翔? 聞こえる?』

 美果の頬に触れようと手を伸ばしてきた翔だが、テーブルの上に置かれたスマートフォンから誠人の呼びかけが聞こえると、慌てた様子でサッと手を引っ込めた。

「あ、ああ……どうだった?」
『ちょっとぉ、すごいもん出てきたよぉ。まってね、いま希ちゃんが画像送るから』

 画像を送る、と言われた翔が、一度ベッドから離れてテーブルに近付く。彼は美果にも誠人との会話を聞かせてくれるつもりらしく、通話をスピーカーモードにしたままで受信したメッセージを確認した。

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