御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
翔に促されたのでどうにか身体を起こそうとする。だが説明を聞きながら腹や腕に力を込めようとしても、上手く力が入らない。
気づいた翔が言葉を切って「起きれないか?」と訊ねてくる。美果が「ごめんなさい」と謝罪すると、翔が小さく微笑んで頭を撫でてくれた。
「仕方ない……ストローないしな」
「しょう、さん……?」
起き上がりかけていた美果の身体をベッドの上に押し戻すと、翔がグラスを傾けて自分の口に水を含む。その様子に驚く間もなく唇を重ねられた。
「ん……ぅ」
翔の長い指先が顎をくいっと持ち上げる。上を向かされてわずかに開いた唇の隙間からとろりと甘い水が注ぎ込まれる。もちろん本当はただの水だが、美果はなぜか甘さを感じた。
「……ん」
顎を支える翔の人差し指が首の付け根をトントンと叩く。それが「飲み込め」という合図だと気づいてこくんと喉を鳴らすと、翔はすぐに唇を離してくれた。けれどそれで終わりではなく、すぐにまたグラスの水を口に含んで美果にそっと唇を重ねてくる。
口移しで水を飲まされるという恥ずかしいの行為に緊張して、翔のベストにぎゅっと縋る。だが翔は服に皺がつくことも気にせず美果の好きなようにさせてくれる。きっと水さえまともに飲めない美果の不安を少しでも和らげようとしてくれるのだろう。
「美果、もう少し飲めるか?」
何度か水を与えられた後に問いかけられたので、ふるふると首を振る。
本当は栄養剤の濃度を下げるべくもう少し水分を補給すべきだとわかっているが、口移しで水を与えられる行為が気恥ずかしい。