御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
ふう、と息をついた翔が自分のネクタイを緩めて首から抜き取る。タオルを濡らして絞るときに腕まくりをして時計も外していたようだが、見れば彼も少し暑そうだ。しかし美果に服を脱ぐなと命じた手前、自分だけ涼しくなるつもりもないのか、ボタンの上二つを外しただけでそれ以上脱ぐ様子はない。
横になったまま動けない美果の隣へ横たわると、首の下に腕を入れて美果の頭を抱えてくれる。そのまま身体をゆるく抱きしめてくれるので、翔もこの苦痛を一緒に耐えてくれるつもりなのかもしれない。
翔の胸に縋って鼻先を寄せると、胸いっぱいに彼の香水の匂いが広がっていく。パーティーという場に合わせたのか、いつもよりさわやかで瑞々しい香り。けれど翔自身の匂いと混ざると、甘くセクシーに感じられる。
もっと翔を感じたい。
もっと傍で、もっと深くまで彼を知りたい。
「!」
そんなことばかり考えていた美果は、無意識のうちに翔の腕に自分の身体を擦りつけていたらしい。美果の様子に気づいて一瞬驚いた顔をされるが、すぐに表情を緩めて頭を撫でてくれる。
おそらく翔は、美果の身体が発情状態にあると最初から気づいていた。だから誠人の説明を聞く前からこれは風邪じゃないと言い切ったし、服を脱いで涼んでも状態が好転しないと説得されたのだ。
そう、この熱を散らすためには身体の中に溜まった欲を放出するしかない。性の快感を得ることで興奮を解放しなければ、美果の状態はしばらく継続するだろう。その予想は翔の考えとも一致していたらしい。