御曹司さま、これは溺愛契約ですか?

 そして翔の身体にもそのつもりがあるはずだ。だからこそ彼のスラックスの前部は固く膨らんでいるし、美果を見つめる視線にだって熱が込められている。

「美果、それはだめだ」

 しかし翔は無意識にそこへ手を伸ばす美果を拒んで制止しようとする。美果の本当の求めに気付いているはずなのに、その先はだめだとあっさり拒否するのだ。

「どうして……? 翔さん……私のことすき、って……」

 以前は確かに美果を好きだと口にしていた。だが今はもう違うのかもしれない。栄養剤のせいとはいえ、経験がないと言っていたのに簡単に乱れてしまう美果に引いてしまったのか。それとも美果の身体があまり好みじゃなくて、気に入ってくれなかったのか。

「もう、好きじゃない……? 私、翔さんのパートナー、ちゃんとできてなかった……?」

 いや、それ以前に美果は翔の役に立てなかったのかもしれない。業界人や有名人ばかりのパーティーで、美果のような庶民が翔のパートナーを務めるなんて無理があったのかもしれない。翔はもう、美果が要らなくなったのかもしれない。

 そう考えると言葉にできないほど悲しくなる。

 両親を亡くして以来、祖母と離れて暮らすようになっても、姉に裏切られても、どんなに仕事が辛くても、こんな悲しみを抱いたことなんてなかった。だから自分は強情で可愛げのない、その代わり心も身体も頑丈なのだと思っていた。

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