御曹司さま、これは溺愛契約ですか?

 なのに翔に嫌われたかもしれない、気持ち悪いと引かれたかもしれない、不要になったのかもしれないと思うと急に不安になって涙が溢れてくる。

 それほどまでに翔に惹かれていると――彼に恋をしていると、こんな事態になるまで気づかないなんて……

 自分の鈍感さに気落ちしていると、翔が「は?」と不機嫌な声を出した。しかしそれは、美果に対して怒っているからではなく。

「そんなわけないだろ。美果はちゃんと出来てた。本当はあのまま『結婚するつもりだ』と言いたかったぐらいだ」

 翔が美果の不安をきっぱりと否定する。その上で実は将来のことまで視野に入れているという考えまで口にする。

「だったら……」
「けど、今はこれ以上はだめだ」

 ならばどうしてこの先の行為を拒むのだろう。美果の求めを拒むのだろう。――そう不安になる美果の髪を、ふっと表情を崩した翔がふわふわと撫でてきた。

「美果を大事にしたい。初めてがこんな状況なんて、あんまりだろ?」
「でも……わたし……」
「辛いよな。ごめん……ちゃんと傍にいたのに、守ってやれなかった俺が悪い」

 翔が突然自分を責め出したので、ふるふると首を振る。

 もちろん翔は悪くない。悪いのは他人に渡す飲み物に異物を混入した萌子だ。

 それをちゃんと伝えようとしたが、翔は美果の唇に指を押し当てて美果を黙らせる。翔にとって重要なのは今この場にいないどうでもいい女性ではないという意思表示だ。
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