御曹司さま、これは溺愛契約ですか?

「少しは引いたか?」
「あ……はい……。だいぶ」
「そうか、よく頑張ったな。いい子だ」

 ようやく身体の熱が引いて燻っていた欲が散ったことを察したのか、翔が美果の頭を撫でて褒めてくれた。それならもう安心だな、と言って起き上がった翔が、先ほど外したシャツのボタンを閉じ始める。

 そういえば大問題を引き起こした稲島萌子への事情聴取が終わっていない。翔にはまだやることがあるのに、美果が不安を感じて引き留めてしまったのだった。

 優しい笑顔で「休んでていい」と言ってくれた翔の言葉に甘えると決める。

 そのままぼんやりと翔の身支度を眺めていた美果だが、ふと疑問が浮かんだ。

「あの、翔さん……」
「ん?」
「私、お仕事辞めた方がいいですか?」
「……は?」

 好きとか愛してるとか、付き合うとか以前に、雇用主と被雇用者が深い関係になっていいものなのだろうか。

 社員ではあるものの本社に出勤しているわけではない美果は、天ケ瀬百貨店という企業が社内恋愛を認められているのかどうかすらわからない。だが一般的には喜ばしい関係ではないだろう。そう思っていたら、翔の表情が不機嫌そうに歪んだ。

「ばか、なんでそうなる。辞めさせるわけないだろ」

 美果は質問をする相手を間違えてしまったのかもしれない。誠人たちの元へ向かう準備を整えていたはずの翔が、美果の上にのしかかってきて少し強引に唇を奪う。

 思わず閉じた目をゆっくりと開くと、見つめ合った翔の目にはわずかに怒りの感情が含まれていた。

「絶対に逃がさない。美果が家政婦を辞めていいのは、俺と結婚するときだけだ」
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