御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
翔が淡々と説明してくれるが、言い切ると同時に少し困惑したように眉尻を下げた。
「どう説明しても的確に伝わる気がしないんだが……お袋はかなりの天然なんだ。世間知らずの箱入り娘が常識を身につけないまま歳をとったらああなるんだな、とつくづく思うよ」
落胆の色を隠さない様子を見るに、翔はきっと母親の扱いに困っている部分があるのだろうと予測する。
しかもそれはきっと、翔だけではない。美果には理解不能な理由で後継者になることを拒む様子を見るに、弟の煌や妹の希も天ケ瀬家と母親に縛られたくないのだと予想する。
「家に稲島萌子を引き入れたのは、お袋にも問題がある。だから悪かった……天ケ瀬の事情に巻き込んで。美果に怖い思いをさせたな」
「いえ、大丈夫です。翔さんが助けてくれたので全然平気ですよ」
翔が話を切り上げる宣言の代わりに、美果の頭を撫でてくれる。
その優しい手つきに照れながらはにかむと、翔がはたと手の動きを止めて身を乗り出してきた。
「美果、一つ訂正しておきたいことがある」
急に真面目な声になった翔に首を傾げる。見つめ合った翔は表情も真剣そのもので、眠気など一切感じられない。
「昨日、話の流れで結婚するつもりがあると言ったが、あれはプロポーズじゃない」
翔の『訂正』の言葉にびっくりして身を強張らせる。