御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
プロポーズじゃない、という言葉を脳内で反芻した美果は、少し残念な気持ちを味わいながら顎を引く。
「わかってます、もちろ……」
「あんな格好悪いプロポーズがあるか。それにまだ付き合ってもいないうちから求婚する勘違い男だとも、簡単に結婚を望む軽い男だとも思われたくない」
「……え?」
翔が美果の両方の二の腕をがっちりと掴まえて、大真面目に弁明する。その必死さに、つい固まってしまう。
「美果に俺を受け入れる覚悟ができたら、改めてちゃんと言う。だから今は一旦忘れてくれ」
「え……あ……はい。……?」
最初の言葉の印象から、翔にはやはり『結婚の意思がない』のだと思った。だが違うらしい。彼が必死な様子で美果に訴えるのは『結婚の意思を伝える瞬間をやり直させてほしい』だった。
「まさか、もう手遅れだとか言わないよな?」
「い、いえ……全然、そんなことは」
翔がむっとしながら訊ねてくる。その迫力に圧倒されてふるふると首を振ると、安堵したように表情を緩められた。
昨夜あんなことがあったせいもあり自然に頷いてしまったが、美果と翔は付き合っているのかどうかすら曖昧な状態だ。当然結婚を考えるような関係ではないのに、翔は近いうちにプロポーズをする予定でいる、とでも言いたげだ。
「美果……いつなら、抱いていい?」
「へっ? だっ……!?」
突然のプロポーズやり直し発言だけでも十分驚いていたというのに、翔が美果の身体を掴んだままとんでもないことを聞いてくる。