御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
思わず声が裏返る美果だったが、そういえば昨晩『美果の初めてを大事にしたい』『ちゃんと判断が出来る状態で改めて抱きたい』と宣言されていたのだった。
今の今まで忘れていた美果もどうかと思うが、今この瞬間に思い出させてくる翔もどうかと思う。軽い男だと思われたくない、とたった今、自分から口にしたばかりなのに。それほど必死ということだろうか。
「今夜でもいい。明日でも……いつでもいい。俺はいつまででも待つ。美果の気持ちを優先する」
言葉にも表情にも軽々しさは一切ない。美果を絶対に逃がさないと宣言するように、腕を掴んでいた左手が腰に回り、右手が美果の頬を包み込む。
「え、えっと……」
じっと見つめられる熱視線に、挙動不審になりながら目を逸らす。
本当は恥ずかしい。だから『そんなことを聞かれても困る』と言い切って逃げ出したい。だが昨晩、美果自ら翔に触れたことも思い出す。
今さら翔を拒否することはできない。そもそも美果の本心は、拒否したいとも思っていない。ただ心の準備がいる、というだけで。
「えと、じゃあ……次の土曜日……とか?」
必死に思考を働かせてどうにか絞り出した答えは、一週間後の土曜日――翌日が二人とも休暇というタイミングだった。
正直、美果としてはいつでも同じだった。だがあまり近すぎる日を指定すれば心の準備が出来ないし、あまり遠すぎる日に設定すれば翔に怒られそうだったので、この辺りがベストだろう……という焦りと勘で選んだ日だ。