御曹司さま、これは溺愛契約ですか?

8. これは寵愛契約ですか?


(なんか……盛大なドッキリを仕掛けられてる気がしてきた……)

 夕食作りに使った調理器具を洗いながら、ついそんなことを考える。

 ちらりと視線を上げて対面カウンターの向こうを確認すると、ソファに腰を下ろし読書をする翔の姿が目に入る。読んでいる本はビジネス書の類らしく、美果には内容などわからないし興味もない。気になるのはその姿があまりにいつも通りなことだ。

 美果はこの一週間、翔と身体を重ねることについて真剣に考えた。ネットや雑誌で情報を収集し、ボディケアを入念に済ませて下着を新調し、女性向けの大人な動画の視聴までして、心構えは十分にしてきた。

 破瓜には出血と痛みを伴うことが多いというが、実際にどんな痛みがどの程度あるものなのかもわらない。だからバッグの中には生理用品とデリケートゾーンに使える軟膏、鎮痛薬まで忍ばせてある。

 さらに美果の身体を見た翔にがっかりした表情で『やっぱり止めよう』と言われてもショックを受けないよう、脳内のシミュレーションと心の準備まで完璧に済ませてきたのに。

(翔さん……普段の土曜日と一緒すぎない?)

 翔はいつもの土曜と同じく九時半ごろに起きてきて朝食を済ませ、テレビの情報番組と経済新聞を確認。美果が休憩を取る一時間は散歩に出かけ、戻ってきて昼食を済ませたら、午後からはブラックコーヒーを片手に読書をしている。

 朝からソワソワしているのは美果だけのようで、翔は驚くほどいつも通りだ。

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