御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
美果が答えを出すために与えられたのは、ほんの十秒程度だった。せっかく猶予を引き伸ばすチャンスだったのに、困っているうちにその時間まで取り上げられてしまう。
「おいで、美果」
優しく甘やかに誘う声に、背中がぞくぞくと震える。お腹の奥がきゅう、と鳴くように疼いている。
腰を引かれて翔のベッドルームに導かれる。口から心臓が飛び出そうなほどドキドキしているし、心の中も頭の中も不安でいっぱいなのに、翔と触れ合う温度に自然と安心する。
毎朝足を踏み入れているベッドルームなのに、今日も翔が起きた後にベッドメイクするために入ったのに、こんなにも緊張するのは初めてだ。
掛け布団を大きく捲ってベッドに腰を下ろした翔が、露わになったシーツの上をぽんぽんと叩く。ここに座れ、という意味なのだと気づいて、翔の隣にそっと腰を下ろす。だがお尻がちゃんとついているのかどうかも認識できないうちに、翔に肩を抱かれてシーツの上に押し倒された。
「翔……さん……」
上から美果を見下ろす視線が熱い。心臓がうるさい。その音が漏れないように自分の口元を指先で覆い隠すが、恥ずかしさに固まってそれ以上は動けなくなる。全身が火照って熱い……きっと顔が真っ赤になっている。
美果の照れる様子を見た翔が、ふっと表情を崩して笑う。口元を覆う美果の指に自分の指を固めた翔が、それをそっと外す。
「美果、返事を聞かせてほしい」
「へ……んじ……?」
「美果が言ったんだろ? 俺と付き合うかどうか、考える時間が欲しいって」
翔に真剣に見つめられて、以前の約束を思い出す。