御曹司さま、これは溺愛契約ですか?

 美果は翔から『土曜に抱く』と宣言されるよりも前に、『自分と恋人同士になることを考えてほしい』と言われていた。自分が〝なし〟じゃないかどうかを考えて、いい返事を期待していると言われていた。

「考える時間も覚悟する時間も、十分に取ったつもりだ」

 きっぱりと言い切られると言葉に詰まってしまう。

 確かに翔は関係をはっきりさせるまでは絶対に抱かないと頑なだった。一応、美果は翔に『好き』と伝えていたし、彼もその気持ちが嘘ではないと見抜いていたはず。

 だがあの時の美果は正常な判断が出来なかった。実際はそこまで前後不覚だったわけではないが、一時の感情で一線を越えるべきではないと諭され、美果も時と場所を改めることに同意していた。

「美果にとって、俺は〝なし〟じゃないか?」

 翔が優しい声で訊ねてくる。

 あの夜から一週間が経った今も、気持ちは変わっていないか? 今度こそ本当に抱いてもいいのか? ――そんな最終確認をされているような気がする。もう逃がさない、と宣言されているようにも思う。

 美果を大事にしてくれているはずなのに、悪戯をされているようにも感じる。秘めた気持ちを確かめるために、美果の口から答えを引き出すために、今日一日わざといつも通りに振る舞っていたのではないかとさえ思えてくる。

 そんなずるくて恥ずかしい確認なんてしなくても、美果の心はもう決まっている。翔を受け入れる覚悟はできているのに。

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