御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
(え……私、東京湾に沈められるの……!?)
どうなるかぐらいわかるだろ、と言われても、残念ながら全くわからない。一生懸命考えるといくつか選択肢は思いついたが、その中で最も容易く想像できたのは埠頭の端から夜の大海原にポイっと投げ出されてしまう自分自身の姿だった。
「おおお、御曹司こわい……!」
怖かった。綺麗に整った顔立ちが怒りを露わにする表情は、かなりの迫力があった。それに『もしかして二重人格なのか?』と思うほど、普段見聞きしている姿と今みた姿には大きな落差があった。
さすがに美果の想像するような――生命を奪われるようなことはないと思うけれど。
「……」
心臓がうるさい。腰が抜けたように力が入らない。顔が熱い。
今朝の占いのラッキーカラーの〝ネイビー〟――美果にはもう、ラッキーなのかアンラッキーなのかすらわからなかった。
* * *
その後上手く力が入らない身体をどうにか鼓舞してコンビニへ向かったが、動揺のあまり必要以上に時間がかかってしまったのは言うまでもない。
結局、上山と小野田の元に戻るまで五分以上の時間を要してしまったせいで、誰がどう考えても似ているとは思えない店長のモノマネをさせられる羽目になった。
しかしやったこともないモノマネそのものよりも、それをじっと見つめて静かな笑みを浮かべている翔の視線のほうが、美果にとってははるかに激しい緊張の原因だった。