御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
番外編 -Side.翔-:天ケ瀬御曹司の煩悩
ドタッと床に何かが落ちる音がした気がして、ふと意識が現実に浮上する。
しかしまだ頭はぼんやりと重いし、眠いし、目を覚ます気になれない。
ならばまだ起きなくていい。もう少し寝ていたい。だからそこにいるはずの温もりをもう一度腕の中に閉じ込めようと思って腕を伸ばしたのに――隣にいるはずの恋人の気配が消えていることに気づく。
夢うつつだった眠気が一気に吹き飛ぶ。
起き上がってみると、前日の夜に一緒に眠ったはずの美果が隣にいない。この日が来るまで一生懸命我慢して、これ以上ないほど大事にして、絶対に嫌われないよう注意して、少しでも男として意識してもらえるよう気を配って、ようやく手に入れたはずなのに。美果も翔が好きだと、恋人になりたい、と言ってくれたのに。
美果が、隣にいない。
どこに行ったのか、まさか逃げられたのかと大慌ててベッドを出ようとして、ふと気づく。
「……美果?」
「いたた……」
視線を下げてみると、ベッドの下に美果が落ちている。思わず動きも思考も止まる。
なぜ、そんなところに?
「どうした? 大丈夫か?」
「あ、翔さん……ごめんなさい、起こしちゃいましたよね」
ベッドの下を覗き込むと、パジャマ姿の美果が布団の中からぴょこっと顔を出す。その様子を見てようやく、自分が被っていた布団も美果と一緒に下に落ちたのだと思い至る。たが今は布団なんてどうでもいい。
完全覚醒しない頭に疑問符ばかりが浮かぶ。寝相が悪いことは本人から聞いていたが、まさかベッドから落下するほどとは思っていなくて。