御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
「怪我してないか?」
「大丈夫です。布団がクッションになってくれました」
「そうか。けどなんでベッドから落ちるんだ?」
「え……えっと……」
呆れた気持ちで問いかけると、美果が恥ずかしそうに視線を逸らす。
もじもじと照れてはいるが、一応事情は説明してくれるつもりらしい。彼女の言葉を待っていると、思いもよらない説明を並べられた。
「夜中目が覚めたら、翔さんがすごく近くて……。恥ずかしくて離れたのに、気づいたらまた近付いてて……。それでその、ちょっとずつ離れてるうちに……落ちちゃいました」
「……」
美果の説明を聞いた翔は、思わず左手で顔面を覆って俯いてしまう。まさかそんな理由でベッドから落ちるなんて。
(……可愛すぎるだろ)
こういうときは、どういう表情をすればいいのだろうか。正解がわからない。これでも三十年以上生きているが、恋人が可愛すぎて言葉を失った経験は一度もない。
いや、そもそもこれまでは自分の生活スペースに他人を入れること自体を好まなかった。だから普段自分が使っている布団からぴょこっと顔を出して、朝からこんなに可愛い攻撃をしてくる存在に出会ったことがない。予想外にもほどがある。
色んな感情を一生懸命押さえ込んでどうにか表情を戻すと、布団に包まって照れている美果に手を差し出す。
「ほら美果、早くあがって来い。まだ早いからもう少し一緒に寝よう」
「いえ……私そろそろ起きて……」
「いいから」