御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
けど次はもっと――と煩悩全開で考え事をしていると、突然『ヴヴヴ』とスマートフォンが振動し始めた。
普段からスマートフォンの音はすべて切るように設定している。だが振動はいつまで待っても鳴り止まない。煩わしい。
「翔さん、電話が……」
「誰だ、こんな朝から」
せっかく美果の抱き心地を堪能していたのに、完全に邪魔されている。美果もただのメッセージではなく電話の受信だと気づいたようで、布団の中から心配そうな声を出された。
仕方がなく美果を腕に抱いたままスマートフォンを手にするが、表示されている名前を見た瞬間、不機嫌な声が出た。
「……お袋か」
「え、お母さま!?」
今日は日曜日。仕事は休みだし、時間だってまだ七時だ。こんな時間に連絡してくる相手なんて数人しか思い当たらなかったので、ある意味予想通りと言えば予想通りではある。ただ、美果は驚いているようだ。
どうしようか、と考えたが、結局は出ることに決める。母の天ケ瀬美雪は、電話に出なければ『何かあったのかと思って~』という理由で五分刻みに延々と電話をかけてくるタイプだ。ならばさっさと出て一分で用件を終わらせた方が手っ取り早い。
緑の表示をタップして耳に押し当てると、すぐに明るく能天気な母の声が聞こえてきた。
『おはよう、翔くん』
「なんだ、朝から」
美果が腕の中で暴れている。おそらく通話の内容を聞いてしまうことを申し訳ないと感じて離れようとしているのだろうが、一分で終わらせてまた寝るつもりなので美果を離す気はない。