御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
『あのね、昨日のランチ会で川端家の奥様に聞いたんだけど……翔くん、この間のパーティーでパートナーを紹介してたんですって?』
「ああ、まぁ」
『ちょっとぉ、どうして私に紹介してくれないの~?』
もぞもぞと動いて脱出を試みている美果の腰を引き寄せながら、あえて少し大きな声で母に説明する。
せっかくだからもう一度宣言する。
これは紛れもない翔の意思表示だ。
「美果は俺の大事な人だ」
「!」
「お袋に根掘り葉掘り事情を聞かれて、美果を怯えさせたくない。そのうち紹介はするが今すぐ会わせるつもりはない」
『え~! 何よそれ~っ!』
母の声の大きさとトーンが二段階高くなる。明らかに不満そうだ。
母とは対象的に、腕の中にいる美果は急に大人しくなって沈黙してしまう。ちゃんと意図が通じたらしく、視線を下げると頬をほんのりと赤く染めてシーツで口元を覆っている。
「っ……!?」
可愛い、と思ったらつい手が出た。パジャマの上から美果の左胸をふんわりと包むと、美果がびっくりした表情で硬直する。
『忍さんも煌くんも希ちゃんも会ったって言ってるのに……私にだけ会わせてくれないなんて……』
「今は、って言ってるだろ」
忍、は天ケ瀬百貨店本社の代表取締役社長である翔の父の名前だ。美果は一週間前のパーティーで父にも自己紹介と挨拶と事情の説明を済ませている。
しかし自分だけ息子のパートナーに会っていないという事実が面白くないらしく、母は終始不満げだ。