御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
思ったより通話に時間を割いてしまったが、これだけしっかり説明しておけばもうしばらく電話はかかって来ないだろう。
通話画面からいつものホーム画面に戻ったことを確認してスマートフォンをベッドサイドのスツールに戻すと、腕の中の美果が文句を言い始めた。
「翔さんのいじわる! 変な声出そうになっちゃったじゃないですか!」
「出せばよかっただろ」
「嫌ですよ!」
美果が必死に抗議してくるので、笑顔を浮かべてからかってみる。すると美果が涙目になって頬を膨らませる。可愛い。
「もう、翔さんのえっち!」
「エッチって、この程度で? 俺はもっと……」
「ばかー!」
先を口にする前に思いきり顔に枕を押し付けられる。
どうやら本気で怒らせてしまったらしい。枕を退かすと美果がベッドから降りるところで、慌てて腕を伸ばしたが脱兎のごとく逃走する美果を捕えることはできなかった。
すかっと空を切った手には気づきもせず、顔を赤く染めた美果が部屋を出ていく。……可愛い。
しかしもう少し抱きしめていたい、と思っていたのに、美果に悪戯したい欲望が勝ってしまったために完全に計画は失敗した。
本当はもっと美果を撫でたい。昨日は手加減したが、もっとたくさん愛し合いたいし、もっと『天ケ瀬翔』を刻みつけたい。もっと好きになって欲しい……
そんな煩悩にまみれた翔が美果に触れることを許されたのは、美果の帰り際である夕方の頃だった。
警戒心が強い子猫を撫でて腕の中に留め続けるのは、翔にとってはまだまだ至難の業である。