御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
第4章
1. 決意を新たに
「翔さん、おはようございます」
コンコン、と寝室の扉をノックする。それからいつもと同じように声をかけてみるが、やはり今日も返事はない。
返事はないが、美果はドアハンドルを下げて押すとそのまま中へ足を踏み入れる。さらにカーテンが閉じた薄暗い室内を進んで大きなベッドへ近付くと、眠っている翔の肩をぽんぽんと叩く。
いつも最終的に起こす時間を考えれば今日はかなり早い方だが、そうはいっても元々七時に起こす予定となっているところの、七時十五分。ならば多少早くても大きな問題ではないだろう。
「翔さん」
「……ん。あぁ、おはよう……美果」
「おはようございます」
未だ眠そうながらもベッドの中で身体を伸ばす翔に、ほっと微笑む。以前は大きな声を出して強めに身体を揺すらなければいけなかったので、優しく起こすだけでも覚醒してくれるようになったのは大きな変化だ。
そして大きな変化はもう一つ。
恋人として翔と正式に付き合うようになっておよそ三か月。こうして翔を起こしに来ると、頬や額、時には唇におはようのキスをされるようになった。
家政婦と雇い主の朝の挨拶としてはかなり過激だと思うし、美果はもう仕事が始まっている時間なので『こんなことをしてはいけない』と思う。
だがそのキスに応じれば翔はすんなり覚醒してくれるし、ベッドの中に無理矢理引きずり込まれることも少なくなった。まあ、ごく稀に朝から衝撃的な悪戯をされることもあるのだけれど。
とはいえ美果自身も本心では嫌ではないので『キスだけなら』『たまになら』と自分に言い訳をしている。我ながら朝からふしだらだ。