御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
「どうした? 美果から傍までくるの、珍しいな」
「あ、えっと……翔さんに報告があって」
最終的には受け入れるが、翔の戯れが恥ずかしいのは事実なので、いつもなら極力キスも回避するところ。
けれど今日は美果自ら翔に近付いたので、その態度を珍しく感じたらしい。ベッドに半身を起こした彼にじっと見つめられたので、美果もその端にそっと正座した。
そう、今日は翔に、大事な報告があるのだ。
「お姉ちゃんの借金、完済しました」
翔の家政婦として天ケ瀬百貨店本社の社員になる契約を結んでから、約七か月。本来ならば早くても一年以上、場合によっては数年かかると思われていた梨果の借金返済が、八月分の給料からの支払をもって無事に完済した。
最初に梨果の借金が発覚し、彼女の代わりに返済することを決心してからは五年という長い歳月。これで美果は、晴れて自由の身となった。
美果の報告を聞いた翔がふっと表情を緩める。それから正座した美果の頭をぽんぽんと撫でてくれる。
「そうか、よく頑張ったな」
「えへへ……ありがとうございます」
これまでの境遇や苦労を知っている翔は、美果の頑張りを優しく労って褒めてくれた。
翔の笑顔に美果も笑顔を返す。恋人としても雇い主としても美果の努力を認めて褒めてくれる翔には、感謝が尽きない。
「それで、あの……翔さんにご相談があって」
そんな翔に美果はあるお願いがあった。
それは他でもない、美果の今後についてだ。
「なんだ?」
「私のお給料を、本来の適正支給額に戻してほしいんです」
「!」
美果の願いを聞いた翔の目が大きく見開かれる。きっと翔は予想もしていなかったのだろう。