御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
「以前から、ただの家政婦のお給料としては高すぎると思っていました。でもパーティーのときに煌さんや希さんとお話して、私が通常の基準より好条件で雇われてると聞いて……」
「あいつら余計なことを……」
「あ、違うんです! お二人は悪くないんです!」
美果の言い方が悪かったのか、翔が不機嫌な表情になる。だが美果は怒りの矛先を煌や希に向けてほしくてこの話をしたのではない。
「煌さんと希さんにもすごく感謝しているんです。本当は私が自分で解決すべき問題だったのに、翔さんや森屋さんだけじゃなく皆さんにたくさん配慮してもらって……」
美果は梨果の借金の肩代わりのために、己の人生を犠牲にしてきた。姿を消した姉の代わりに朝から晩まで働き詰め、夢を諦める選択を余儀なくされた。
その辛い日々から美果を救い出してくれたのは、翔と、翔の考えを受け入れてくれた人たちだった。
彼はこの好待遇に自分の個人的な力が働いていることを美果に知られたくなかったようだ。けれど美果は、むしろ二人が真実を話してくれたことに感謝している。
二人が教えてくれなかったら、美果は心のどこかで自分の待遇に疑問に感じつつも、のうのうと生きていただろう。この環境が翔の優しさで作られたものだと気づきもせず、ただ甘やかされ続けていたかもしれないのだ。
「私にはもったいない環境で働かせてもらっていることを、本当は申し訳ないと思っていて……」
「そんなことはない。美果が俺の身の回りや家のことを頑張ってくれるおかげで、俺は仕事に専念できる」
「そういってもらえると嬉しいです」
「本当だぞ? 最近周りにも顔色が良くなったと言われるし、俺自身も身体の調子がいい。美果のおかげだ」