御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
翔は美果の遠慮を否定して『謙遜しなくていい』『もっと自信を持て』と諭してくれる。美果のおかげで快適に生活できている――それを教えてくれる翔の気持ちが嬉しい。
けれど美果は、いつまでも翔の優しさに甘えているわけにはいかないのだ。
「お姉ちゃんの借金を完済できたのは、たくさんの方が支えてくださったおかげです。だから私、今度は皆さんに恩返しがしたいんです」
真実を知ったのは、天ケ瀬百貨店の新店舗開店を発表するパーティーの夜。つまり今から三か月ほど前になるが、美果は一度、その事実を胸の奥にしまい込んだ。
もちろん美果の雇用は翔の生活のため、というみんなの言葉も、嘘ではないと思う。だが美果が少しでも早く苦しい状況から解放されるようにと願って、翔をはじめとした人々が綿密に段取りを組んでくれたことは紛れもない事実だ。
だから美果は、最高の雇用条件で雇ってくれた人たちの優しさにあえて甘えた。彼らの親切を壊すような真似はしたくなくなかったからこそ、その厚意をまずはありがたく受け取って、とにかく借金を返済することに専念した。
そして美果の願いは無事に叶った。美果はもう、大丈夫だ。
ならば今度は、その感謝を少しずつ返していきたいと思う。周りの厚意に甘えてばかりではいられないと思う。
「恩返し?」
「はい。私、自分の仕事を正当に評価してもらって、私自身をちゃんと認めてほしいんです。自分の実力に見合った正当な報酬を頂いて、それ以上に翔さんの役に立つことが一番の恩返しになるのかな、って……考えたん、ですけど……」