御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
自分の考えを述べていた美果だったが、ふと顔を上げると翔が驚いたように瞬きをしていることに気がついた。
もしかして何か間違えてしまったのだろうか、と不安になる。
「だ、だめですか……?」
「いや」
おそるおそる訊ねると、翔がふっと破顔した。
「美果はえらいな。けどようやく大変な状況から解放されたんだ。もっと自由に羽を伸ばしてもいいんだぞ?」
「十分自由にしてますよ。私は自分の意思で『もっとお仕事を頑張りたい』と思ったので」
「……そうか」
翔の手が頬を包み込み、親指がゆっくりと肌を撫でる。その優しい指遣いに身体がぴくっと反応するが、彼はずっと笑顔のままだ。
「わかった。関係部署に相談して、美果の希望通りになるよう調整する」
「ありがとうございます」
美果の気持ちを聞き届けた翔がしっかりと頷いてくれたので、美果もそっと笑顔を返す。
いじわるに美果をからかってばかりの翔だが、美果の本気の気持ちはちゃんと尊重してくれる。こういうとき、美果は翔の意外な優しさを感じるのだ。
「美果……」
しかしほっとしてはいられない。どこにスイッチがあっていつそれが押されたのか、気が付けば翔の腕が腰に回されている。
エプロンの結び目に翔の指先がかかったことを感じ取ると、美果は俊敏な動きで後ろに下がり、その勢いでベッドから飛び降りて窓際まで一目散に後退した。
「……なんで避けるんだ」
「さ、避けてないですよ~。もう起きる時間ってだけです~」