御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
不機嫌な表情の翔に指摘され、にこにこと笑顔を浮かべながら背後にあったカーテンをあける。朝日が部屋に入ると日光を浴びた翔の表情は余計に不機嫌に見えたが、それには構わずタッセルを結んで壁際に留める作業に集中する。
もちろん、翔を避けているのではない。
ただ初めて翔に抱かれたときからずっと同じ、美果はいつもこのベッドで翔に愛される。回数はそれほど多くはないが、月に数度互いの休みが被る土曜日は、家政婦の仕事が終わった流れでこの家に宿泊することが多い。
そのときのことを、どうしても思い出してしまうのだ。
恥ずかしいことばかり考えてしまう自分を叱咤しつつ反対側のカーテンも開けようとしたが、ふとベッドの方向へ視線を向けてみると翔がもぞもぞと布団の中に戻っているところだった。思わず「えっ」と驚いてしまう。
「ちょっと! なんで戻るんですか!?」
「美果にキスしてもらわなきゃ目が覚めない……おやすみ」
「おやすみじゃないです! 起きてください!」
何食わぬ顔で二度寝しようとしている翔に説教する。しかし布団を掴んで捲ろうとしたが翔の力は案外強い。美果の中途半端な力では、変な方向に負荷がかかってシーツが破れてしまいそうだ。
こうなるとまた布団の上から翔をトントン叩いて穏やかに起こすしかなくなる。やり直しだ。
「今言ったじゃないですか。私はお仕事を頑張るって決めたんです! ちゃんと起きてもらいますからね!」
「毎朝十回キスして起こす方法に切り替えてくれ」
「そんな起こし方しませんっ」
朝から本当に、ふしだらすぎる。
* * *
(はぁ……心臓が持たない)