御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
仕事帰りにスーパーで購入した食材を自宅の玄関先に下ろしながら、翔のわがままな愛情表現を思い出す。
天ケ瀬翔は、自分の顔が美しく整っていることに気づいてないのかもしれない。あんな風に迫られたら美果は毎朝緊張してしまうのに、彼は何もわかっていないかのように美果に迫ってくる。
油断しているとキスどころか服の中に手を入れられるので、美果もうっかり流されてしまいそうになるのだが……
(だめだめ! 仕事とプライベートはちゃんと分けるの!)
翔と正式に付き合うようになってから、月に二~三回の頻度で彼の家に宿泊している。先日は二人の予定を合わせて初めてのデートもした。
だから間違いなく恋人同士になったのだが、美果は未だに翔とのスキンシップに慣れない。翔はただの戯れのつもりかもしれないが、恋愛経験が浅いためか美果はつい冗談を本気にしそうになるのだ。
毎日かわすのが大変……と思いながら靴を脱いでいると、ふと背後で扉が開く音がした。
ガチャッという音にびっくりして振り返ると、そこには同じくびっくり顔をした梨果が立っていた。
「美果!?」
「お姉ちゃん……!?」
梨果もまさか、玄関に入ってすぐのところに美果がいるとは思わなかったらしい。
何してるの? と訊ねられたが、考え事をして手が止まっていただけで、美果は靴を脱ぐ途中だっただけだ。特に何をしていたわけでもない。
(どうしよう……借金のこと……)
今このタイミングで梨果と直接会う状況を想定していなかった美果は、突然の再会に判断力が大きく鈍った。いつものように有名ブランドで全身を武装した梨果に、事実を伝えるべきかと逡巡する。