御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
だから翔がパーティーで紹介した人物が自分の恋人の妹であることまでは知らないし、それを聞いた梨果本人も、
「愛人止まりなのに必死になっちゃって、美果かわいそう」
と蔑むようにせせら笑うのだろう。
「でもまぁ、あれぐらい若くてイケメンで生まれつきお金持ちの御曹司さまが相手なら、別に愛人でもいいよね。向こうも昼間コソコソ会ってちょっと寝るだけなら、本命にもバレないだろうし」
「は……はぁ!?」
梨果のとんでもない勘違いの数々に、つい大きな声を出してしまう。
翔の今の立場は、彼が大きな会社を背負う覚悟を決めて、それに見合う努力を日々重ねているからこそ得られたもの。
もちろん天ケ瀬百貨店の御曹司として生を受け、恵まれた環境で育ったことも事実だろう。だが翔が会社の未来のために並々ならぬ努力をしていることも、相手に良い印象を持ってもらえるよう自分の本音を犠牲にしていることも、美果は十分すぎるほど知っている。
なのに梨果は、翔が生まれつきお金持ちというだけで楽なポストに就いているかのような言い方をする。しかも本来のパートナーを裏切って、仕事をサボって愛人と逢瀬を重ねる不誠実な人だと断言するような発言までする。
何も知らないくせに、勝手な想像をぶつけてくる無神経さに猛烈に腹が立つ。
それに梨果は、そもそもの前提から盛大な勘違いをしている。美果は翔の愛人などではない。