御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
「美果、私が借りてたお金返してくれたんだもんね? さっき通知見たよ」
「!」
口を噤む美果に対して梨果がふと放った言葉に、一瞬驚いてしまう。
そういえばクレジットカード会社からの支払い完了の証明書とカードの解約通知を、ダイニングテーブルの上に置きっぱなしにしていた。梨果は美果が帰ってくる前に一度帰宅し、それを見ていたのだろう。
けれどそれなら手っ取り早い。美果が梨果にお金を貸す理由がなくなったことを彼女が把握しているのなら、もう梨果に説明することはなにもない。
本当は「ありがとう」という感謝の言葉や「迷惑かけてごめんね」という謝罪の気持ちを示してくれれば、美果の苦労も少しは報われたと思う。
だがそんな希望はとうの昔に捨ててしまった。誰にでも分け隔てなく優しく、責任感と頼りがいがあった以前の姉の面影はない。
こうなる前に梨果を止められなかった自分に負い目を感じることもあるが、美果は今の彼女にはもう何もしてあげられない。美果は十分、責務を果たしたはずだ。
だから出来るだけ梨果を傷付けないよう、穏やかに諦めてもらうための台詞を必死に探していたのに。
「払い終わったなら、今は余裕あるでしょ?」
「え……? ちょ……何言ってるの……?」
梨果の口から信じられない言葉が飛び出してきたので、思わず思考が急停止する。意味がわからず不機嫌な声が出てしまう。
「そんなに可愛がってもらってるなら、少しぐらい私に分けてくれてもいいじゃない」
「だから違うってば! もうやめてよ!」