御曹司さま、これは溺愛契約ですか?

 近くのコンビニのATMからお金を下ろしてきた美果は、封筒を手渡しながら祈るような気持ちで懇願した。

 もうお金を貸すのはこれで最後にしてほしい――その気持ちが、今回は梨果に届いたらしい。

「そうだよね、美果だって自分の好きなもの買いたいもんね? これで最後にするって約束してあげる。じゃあ……」
「まって、お姉ちゃん」

 そのままお金を受け取ろうとした梨果の目の前から慌てて封筒を引き下げると、梨果が一瞬不機嫌そうな顔をした。

 こうなってはもうお金を貸す流れからは逃れられないが、だからといって美果も無条件かつ手放しに大金を差し出すつもりはない。

『秋月さんが頑張って働いたお金は、秋月さんのものですから。貸したらちゃんと返してもらいましょうね』――誠人にそう言われていたことを思い出す。

「借用書にサインして」
「え……? 借用書?」

 以前、父のカメラを質にされそうになったことを翔に話した数日後、話を聞いた誠人が借用書のひな形を作って持ってきてくれた。『いざというときはこれが秋月さんのお金を守る大事な証明書になりますから、使う予定がなくても持ってるといいですよ』と言われていたのを、思い出したのだ。

 借用書は基本的に貸した側ではなく借りた側が作成する文書らしいが、この際それはどちらでもいい。大事なのは、美果が梨果にお金を貸している事実を記録として残すことだ。

 用意してあった書類に必要事項を記入すると、梨果もしぶしぶといった様子でそこにサインする。本当は姉妹間でこんな悲しい契約なんてしたくないけれど、こうでもしなければ美果は搾取される一方だ。

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