御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
3. これはプロポーズですか?
「美果?」
「!」
翔に名前を呼ばれたのでハッと我に返って顔を上げると、ダイニングに着席してコーヒーカップを指に引っかけた翔が、じっとこちらを見つめていた。
「あ、ごめんなさい……コーヒーおかわりですよね」
そうだ、朝食後のコーヒーをもう一杯淹れてほしいと言われてお湯を沸かしていたのに、電気ポットの湯沸かしが完了しても意識がどこかへ飛んだままだった。
いけない、仕事に集中しなきゃ! とふるふる首を振って、止まっていた手を動かし始める。それを見た翔も、直前までの報告の続きを再開する。
「……で、急遽商談の予定が入って、土曜だが明日も出勤することになった。けど日曜はいつも通り休みだから、仕事が終わったらそのままここで待っててくれるか?」
ここ最近の美果は、土曜日の仕事が終わるとそのまま翔の家に滞在してプライベートの時間を過ごすことが多い。翔も日曜日は在宅の場合が多いので、土曜の夜は二人でゆっくり食事をして、のんびりと過ごすことが習慣となりつつあった。
「あ、あの……週末はちょっと用事があって……。ごめんなさい、今週はお泊まり出来ません……」
けれど今は、とてもそんな気持ちにはなれない。
翔と一緒にいる様子を梨果に見られるかもしれない。このマンションに入る姿を見られるかもしれない。美果の行動を把握されて、関係を勘ぐられるかもしれない……そう思うと、怖くてデートにも出かけられない。
だが今の美果の不安や心情を翔に説明するのも躊躇われる。だから結局、美果は不自然に翔と距離を置いてしまう。