御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
美果の返答を聞いた翔が「なんだ、またか?」とつまらなさそうなため息を吐いた。
「先週もだっただろ。せっかくの休日なのに、全然予定が合わないな」
「申し訳ありません……」
翔の落胆を目の当たりにすると、途端に申し訳ない気持ちになる。
もちろん本当は、美果も彼と一緒に週末を過ごしたい。もっと傍にいたいし、たくさんくっついていたい。
けれど頭の片隅にあるわずかな引っ掛かりが美果の思考と行動を制限する。翔に与えられたあたたかな気持ちが、少しずつ冷えていく。知られたくない、迷惑をかけるかもしれないと思う不安が、美果のこころを蝕んでいく。
そしてその感情が、翔に伝わらないはずもなく。
「美果……最近、俺を避けてないか?」
「え……?」
不意に聞こえた低い声に反応して、そっと視線を上げる。すると受け取ったコーヒーカップをコースターに戻した翔が、美果の顔をじっと見つめていると気づく。
「そ、そんなことない……です」
「……」
翔の視線には『中途半端な言い訳は許さない』とでも言いたげな、静かな圧が込められていた。だが素直に認めることも出来ず、美果はそっと顔を背けることしか出来ない。
そう、翔は本当は気づいている。
突然帰宅した梨果が美果にお金を無心してきたのが、先週の木曜日の話。その翌々日である土曜日のお泊まり予定を急遽キャンセルし、今週もまた曖昧な理由で誘いを断っている。
さらにぼーっとする瞬間や考え込む時間が増えた美果の変化を、人の機微に敏感な翔が、気づかないはずがない。