御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
だから何も問題ない。後ろめたいことは何もない。翔もきっと味方をしてくれる。ならば事実を話してもいいはずなのに――冷静になると、やっぱり知られたくないと強く思ってしまう。
美果がどんなに細心の注意を払っていても、翔本人や会社が上手く対処してくれても、梨果が大胆な行動を取れば迷惑をかけてしまうことは避けられない。
ただ連絡をしてきたぐらいならば適当にあしらうこともできる。だが梨果の出方によっては、翔のこれまでの努力を踏みにじるような事態にも発展しかねない。
そうならないために、翔との距離を置いたほうがいいのではないかと思う。近付いてきた梨果にただの家政婦であると断言できるよう、翔とのプライベートの接触を控えたほうがいいのでは、と考えてしまう。
(私、馬鹿だな……お姉ちゃんの言う通りだ)
今さらになって気づく。どうしてこれまで無邪気に浮かれていられたのだろう。本当は心のどこかで理解していたくせに。
そう、美果と翔は、このままずっと恋人同士でいることは出来ない。天ケ瀬の後継者となる彼は、いずれ誰かと結婚してさらなる後継者を得なければならない。けれどその相手が、一般家庭の生まれでなんの取り柄もない美果でいいはずがない。
翔は『美果に俺を受け入れる覚悟ができたら、改めてちゃんと言う』と宣言してくれた。それは『いつか美果にプロポーズをする』という意味だと思っていた。だが冷静に考えてみれば、美果は翔に求婚されても断ることしか出来ない。
一般家庭どころか、つい最近まで借金を背負っていて、しかも今後もそれを繰り返すかもしれない姉がいる。