御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
「美果?」
「こんなに高価なプレゼントを頂いても、お返しできません」
「返さなくていい。俺も一緒に行くし、楽しみにしてる。それに……誕生日に美果に伝えたいこともある」
「!」
翔から『伝えたいこと』と言われた瞬間、美果は身体から魂を抜かれたような心地を味わった。
美果も鈍感ではない。まだ付き合い始めて三か月半ほどだが、誕生日にずっと行きたかった海外旅行をプレゼントされて、『伝えたいこと』があると言われて、その内容をまったく予想できないほど初心ではない。
翔の少し照れて困ったような表情を見れば、彼が何を言うつもりなのかぐらい想像できる。
けれど。否、だからこそ。
「……ごめんなさい」
「おい、言う前から断るな」
美果が小さな声で謝罪すると、翔が焦ったような声を出した。
「付き合うときは考えてくれたし、俺もちゃんと待っただろ? なのになんで、今度は考えもせず断るんだ」
「だ、だって……」
「そんなに、嫌なのか」
嫌なわけがない。
もちろん嬉しい。
嬉しくないはずがない。
美果に誰かを愛することや愛されることの喜びを教えてくれたのは、天ケ瀬翔ただ一人だけ。美果の事情を理解し、長い苦労を労わり、ささやかな夢を認めて応援してくれるのも、美果の人生には翔以外に存在しなかった。
だからずっと一緒にいたい。そのために『結婚』を考えるのも、美果が心の底から愛しているのも、本当は彼だけだ。
天ケ瀬翔以外にはいない。自分でも自分の気持ちを理解している。でも。
「……私、自分の力で夢を叶えたいんです」