御曹司さま、これは溺愛契約ですか?

 思ってもいないことが口をついて出る。心の中に一切なかった感情が、ぽろぽろと零れ落ちてくる。

 まるで梨果の悪意に、心が染まってしまったように。

「翔さんの気持ちは嬉しいです。けど父との約束は……自分の手で叶えたい。誰かに与えられるんじゃなく、自分で一生懸命働いて、自分で稼いだお金で……自分だけの力で成し遂げたいんです」
「……美果」
「誰かに与えられて叶える夢なんて……ほしくありません」

 ちがう。
 そんなことを言いたいわけじゃない。

 本当は翔の気持ちが嬉しい。美果の夢を知ってくれて、いい夢だと微笑んでくれて、頑張れと応援してくれる翔に美果の夢を奪う意思がないことなんて、美果が誰よりも理解している。

 翔は美果に喜んで欲しかった。一緒に夢を見てくれようとした。美果のために願いを叶えてくれようとしただけで、美果の夢を取り上げるつもりなんてない。それはわかっているのに。

「そうだよな……ごめん。美果は自分で頑張って、夢を叶えたかったんだもんな」

 翔が寂しそうに、申し訳なさそうに俯く。

「美果の夢を横から奪って、俺のエゴを押し付けるようなことをした」

 翔の右手が美果の肩を包み込んでくれる。その指先が少し震えているような気がして、自分の可愛げのない言い方を猛烈に後悔する。

 可愛げがないどころではない。あまりにも酷い言葉で、美果を想ってくれる翔の気持ちを否定した。そんな最低な断り方をした自分を殴ってやりたい気持ちになる。

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