御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
美果の態度から『美果が一方的に恋心を抱いているのではなく、相手も美果に好意を寄せてくれている』と察したらしい。美果が頷くと、静枝がにこりと笑顔を浮かべる。
「それなら何も問題ないじゃない」
「えっ? でもその人、私とは住む世界が全然違ってて……」
美果と翔はあまりにも住む世界が違う。美果は一般家庭の生まれで美果自身にもなんの取り柄もないが、翔は天ケ瀬百貨店を総括する『天ケ瀬家』の御曹司で、いずれはグループの後継者となる身だ。二人の間に厚く高く頑丈な壁があることは、話を聞いた静枝にもわかるはず。
「そういえば、美果ちゃんには話したことなかったかしらね」
どうすれば伝わるだろうと思っていると、静枝がふと全然違う話をし始めた。しかしその内容は、美果の想像よりもずっと壮大な展開で。
「実はね、おじいちゃんってすごく有名な財閥のご子息だったのよ。三男坊だけどね」
「そ……そうなの!?」
初耳なうえに意外すぎる事実を知って驚く美果に、静枝がにこにこと笑顔を作る。
「おじいちゃんには家が決めた許嫁がいて、私にも父が決めた相手がいたわ……でもね、二人で逃げちゃった」
「え?」
えへっ! とお茶目に笑ってみせる静枝に思わず言葉を失う。お互いに別の相手がいたのに、二人で逃げた、ということは。
「か、駆け落ちしたの……っ?」
「そうよ~」
驚愕しながら問いかけると、静枝がエヘンと胸を張る。だがそこは胸を張るところではない。美果は初めて聞く話の連続にただただ目を瞬かせるしかない。