御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
「おじいちゃんのご家族にはすぐ見つかっちゃったんだけどね。でもおじいちゃんは私と一緒になれないなら家に戻るつもりはない、って頑として譲らなかったわ。
逆に私の家には何年も見つからないまま免れてたんだけど、私の代わりにすぐ下の妹が父の決めた相手と結婚したの。だから家の人と身代わりになった妹には相当恨まれたはずよ」
はじめて聞く祖父母の馴れ初めと思いきりの良さに驚く一方で、妙に納得できる部分もある。
(それでうち、親戚が少ないんだ……)
美果には親戚と呼べる存在が極端に少ない。亡くなった母・舞果の生家である須田家の人々とは多少の親交があるが、父・亮介は一人っ子のため父方のいとこは存在しない。そしてその上の世代である祖父母の親戚にも会ったことがない。
これまでは単に遠方に住んでいるから会う機会がないのだと勝手に解釈していた。だがまさか、二人揃って生家から勘当されていたとは。
考え込んでいると静枝が美果をちょいちょいと手招きする。そして耳元でそーっと内緒話を打ち明けてくれる。
「けど本当はね、妹も最初からその人のことが好きだったのよ。父が勝手に私の相手に決めてしまったから一度は諦めたけど、結局私が駆け落ちしちゃったから妹も初恋を叶えることになったの。家族の手前、今も表立っては仲良くしてくれないけど、後からお手紙をもらってこっそり感謝されちゃった」
「そうなんだ」
「内緒よ?」