御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
うん、と頷く美果だったが、あえて口止めをしなくても今の話が美果の口から誰かに漏れないことは、静枝もちゃんと理解しているだろう。これは美果と静枝の女子トークで、二人だけの秘密の話なのだから。
美果と身体の距離を離した静枝がにこにこと笑う。激しくも儚く、壮大で美しい恋をした人生の先輩は、美果の悩みの本質まで見通しているようだ。
「何もかも捨てることになっても、色んな人に迷惑をかけることになっても、私とおじいちゃんは本当に幸せだったの」
静枝の言葉にこくんと顎を引く。
美果には祖父の記憶がほとんどないが、彼の思い出を語るときの静枝の表情はいつも輝いていた。まるで今も祖父に恋をし続けているように。
「一緒になったことを後悔したことは一度もないわ。だってあの人は、私にこんなに幸福な人生をくれたんだもの。大事な息子と可愛い孫たちをくれた……だからあのときおじいちゃんの手を取って良かった、って今でも思ってるの」
「……おばあちゃん」
静枝の人生をぎゅっと凝縮した言葉に、美果の胸もぎゅっと熱くなる。
もちろん美果も同じ気持ちだ。この人の孫に生まれることができて良かった――心の底からそう思っている。
「だから美果ちゃんも、難しいことを考えずに自分の気持ちに素直になった方がいいと思うわよ」
「……」
屈託のない笑顔に美果も頷きかけて……けれどやっぱり止まってしまう。