御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
静枝の優しさを、美果の想いを、今付き合っているという恋人の献身を足蹴にする梨果をどうしても許せない。どうしても受け入れられない。
そして美果は――そんな感情を抱いてしまう自分自身が嫌いだった。醜い気持ちを持ってしまう自分が許せなかった。
「自分の心がこんなに醜いことを……知られたくないの」
先日梨果に無心されたときに真っ先に感じた『梨果と血が繋がっていることを知られたくない』という感情は、本当は少し違っている。美果が翔に一番知られたくないことは、血を分けた姉妹を許してあげられない醜く狭い自分の心だ。
梨果の味方になってあげられない自分が嫌でたまらない。心が狭く見苦しい感情を、愛情深く優しい翔に知られたくない。それに梨果と翔が近付くことを拒否する気持ちも、抑えられない。
だからもう、関わらないでほしいと思ってしまう。相手は実の姉なのに。
「その許せない人って、もしかして梨果ちゃん?」
「!」
黒い感情に囚われていると、静枝が能天気な声で問いかけてきた。その言葉にハッと我に返ると、静枝がそっと肩を竦める。
「確かに、梨果ちゃんは昔からわがままな子だもんね」
「え、あ……あの」
静枝の断言に自分が余計なことを喋りすぎてしまったことに気付く。
もちろん静枝名義のクレジットカードで借金をしていた事実や、それを美果が数年がかりで返済したことは話していない。今後も話すつもりはない。
しかし名前こそ出さなかったが『悩んでいる人』も『悩ませている人』も自分の孫なのだから、静枝もピンと気がついたのだろう。