御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
静枝にとっては美果も梨果も大事な孫だ。ならば分け隔てなく対等に接する静枝に聞かせていい話ではなかったのに。
猛烈な後悔に襲われてあわあわしていると、それを見た静枝がくすくすと笑い出した。
「美果ちゃんは本当に優しい子ね」
「ちがう……私、全然優しくなんか……」
「でも気を遣わなくてもいいのよ。だって私、美果ちゃんと梨果ちゃんの〝おばあちゃん〟なんだから」
「え……?」
真面目な表情と台詞の意味がわからず、動きが止まってしまう。口を開けて、ソファの隣に座った静枝の顔をまじまじと見つめてしまう。
「いい? 美果ちゃん、よく聞いて。孫のわがままを許すのは、おばあちゃんの役目よ」
「役目……?」
「そう。だから美果ちゃんの役目は、梨果ちゃんのわがままを何でも聞いて許してあげることじゃない。無理に仲良くすることじゃない。今の美果ちゃんに一番大事なのは、自分の幸せをちゃんと見つけることなのよ」
力強い静枝の言葉に瞠目する。目から鱗が落ちたような気分を味わう。
驚いて固まる美果の姿を見た静枝が、ふっと笑顔になる。その表情は孫の幸福を祈る祖母の優しい微笑みだ。
「美果ちゃん、家族に勘当された私が、不幸に見える?」
「ううん……見えない」
「そうでしょ? その通りよ、私すごく幸せなの」
静枝の宣言から、彼女が言わんとしていることを感じ取る。
姉妹だからってといって絶対に仲良くする必要はない。許せないこともがあって当然だし、嫌いになって疎遠になることだってある。自分がそうだったからわかる。