御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
静枝はすべてを捨てて愛する人と一緒になった。そして誰にも負けない幸福を手に入れた。
天ケ瀬の未来を担う翔はそうはいかないけれど、彼もこれまで築き上げてきたすべてと同じぐらいに美果を大切にしてくれる。その優しさと想いは、美果にも感じ取れている。
だから翔の気持ちに向き合いたい。美果もちゃんと応えたい。――今ならそう思える。
「これで私は、美果ちゃんの恋を思いっきり応援できるわね?」
美果の決心を感じ取ったらしい。静枝がお茶目に笑って見せるので、美果もようやく笑顔を返す。
「うん。ありがとう、おばあちゃん大好き」
「あら、私も美果ちゃんが大好きよ」
うふふ、と笑って美果の手を優しく包んでくれる静枝には、感謝することしかできない。
きっと美果の恋はまだまだ未熟で、愛と呼ぶにはあまりに拙くて、静枝の言うような幸せにはまだ少し遠いのかもしれない。
けれど翔の柔らかな笑顔や優しい言葉、温かな体温や丁寧な指先、慈しむような口付けを思い出すたびに美果も優しい気持ちになれる。
こんな風に思える相手は、きっと後にも先にも翔だけだから。
(翔さんと、ちゃんと話そう)
もう隠さない。
誤魔化さないし、逃げない。
ひどい言葉で傷付けてしまったから、翔はもう美果への気持ちが冷めてしまったかもしれない。恋人どころか、家政婦としても不要だと言われてしまうかもしれない。
けどもしそうだとしても、今の美果の気持ちをちゃんと言葉にして伝えたい。美果を想ってくれること、大切にしてくれること、夢を大事にしてくれること――美果を愛してくれることを『嬉しい』と伝えたい。
今、すぐに。