御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
5. 純愛のしるし
静枝の施設を出た足で翔のマンションへ向かうと、いつも出勤するときと異なり、入り口でコンシェルジュに取り次いでもらう。今日は仕事ではなく、あくまでプライベート……美果が自分の気持ちを伝えるためにやって来たからだ。
事前に電話やメッセージを入れておくべきかと思ったが、連絡がついた流れでなんとなく言葉にするよりも、面と向かって自分の言葉で今の気持ちを伝えたかった。だからエレベーターを降りて翔の生活スペースである南側の入り口に向かい、チャイムを押した瞬間に扉が開いたことに、素直に驚いた。
「美果……!」
「ごめんなさい、翔さん。日曜日に来ちゃっ……」
少し疲れた表情の翔に謝罪しようとしたが、最後まで言い切る前に腕を引っ張られて、胸の中に抱き込まれた。いつもより早く大きく鼓動している彼の心音を聞きながら、
「お話したいことがあるんです」
と伝えたが、それを聞いた翔の返答は、
「……別れ話なら聞かないぞ」
だった。
声が少し震えている。美果の身体を抱きしめる力がいつもより強い。そこに美果を想う気持ちが色濃く表れていると知り、胸の奥がじわりと熱くなる。
翔の背中をぽんぽんと叩いて一度離れてもらうと、ゆっくり話がしたいと告げる。
そのままリビングへ移動することになったが、歩いている途中も翔は美果の手を離してくれなかったし、普通に座ろうとしたのに正面から抱きしめられて翔の脚の上に座らされた。