御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
片時も離れまいと訴えるような様子が、少しだけ駄々をこねる子どもみたいに思える。けれど彼の唇が耳元で囁く言葉は、少しも子どものようではない。
「美果が好きでたまらない。……美果だけを愛してる」
「翔さん……」
「なのにどんなに抱きしめても言葉で伝えても届かない。必死になればなるほど、美果が俺から遠ざかっていく」
翔の切ない訴えに胸がきゅう、と甘く鳴く。こんなにも美果に恋焦がれて欲してくれる存在を、全身で愛情を伝えてくれる人の手を、自ら離そうとしていたなんて……自分はなんてバカなのだろうと思い知る。
「卑怯な考え方をしたんだ。美果が行きたがってた場所に連れていけば、俺に気持ちが戻ってくるかもしれない、また振り向いてくれるかもしれない。そこで完全に俺のものにしてしまえば、美果を奪われずに済む」
「……翔さん、?」
「美果を、手放したくない」
翔の想いは嬉しいが、彼は最初の前提から間違っている。美果は他に好きな人が出来たから翔を避けていたのではない。もちろん翔を嫌いになったわけでもないのに、彼は美果が心変わりをしたと勘違いしているらしい。
翔の胸に手をついて少しだけ身体を離す。そうして静かに見つめ合うと、翔が悔しさをにじませた表情で俯く。
「最初は美果を喜ばせるために考えてたつもりだったのに、俺は間違った」
「翔さん……」
「美果の夢を踏みにじる気はなかった。ごめんな。でも俺は美果が――」