御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
翔の一途で健気な想いは留まることを知らない。溢れ出る愛の言葉と謝罪の言葉を止めるために、美果は自らの唇で翔の台詞を奪った。
触れるだけのキスに、翔が驚いた顔をする。唇を離してもう一度見つめ合うと、先ほどまで少し元気がなかったきらきら御曹司で完璧な王子様が照れて狼狽し始める。
美果からのキスに驚いた表情を目の当たりにすると美果も照れてしまうが、ようやく話を聞いてくれるようになった機会を逃したくはない。
だから美果も、自分の言葉で自分の想いを伝える。はっきりと、真っ直ぐに、素直に。
「私も、翔さんだけが好きです」
「……なら、どうして俺を避けるんだ」
存在しない相手に嫉妬の心を燃やす翔は、美果の言葉に不機嫌な表情を見せる。その様子に一瞬だけ怯んでしまうけれど、すぐに意を決して顔をあげる。
美果は自分の想いも状況も考えも、自分の言葉でちゃんと伝えると決めたのだから。
「お姉ちゃんに、翔さんとの関係を知られてしまったんです。しかも愛人だと勘違いされてて」
翔の整った眉がピクリと動く。それから訝しげな様子で眉を寄せる表情を見るに、彼は梨果の存在をすっかりと忘れていたらしい。美果が無事に借金を完済したこともあって完全に記憶の彼方に消し去っていたらしく、数秒遅れて「ああ」と納得の声を出された。
とりあえず翔が思い出してくれたことを確認し、美果も話を続ける。
「誤解を訂正すべきか、事実を告げずに受け流すべきか、すごく迷いました。でも結局、誤った認識を否定するだけで、実際の関係は口にできませんでした」
「なんでだ? 言えば良かっただろ」