御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
不思議そうに首を傾げる翔だが、そう簡単に言えはしない。美果の仕事や恋愛の事情も、翔の存在や人柄も、二人の関係も、梨果には極力知られたくない。なぜなら。
「お姉ちゃんが、翔さんに興味を持つかもしれないから」
「……ん?」
「だってお姉ちゃん、私が翔さんの愛人だと思ってるから、今はまだ本気じゃないんです。でも私みたいな庶民と本当に付き合ってるって知ったら、自分にもチャンスがあると思って絶対に翔さんに近付いてきます」
以前は美果と一緒にいる姿を遠目から見かけただけだった。だが意図して翔に近付いて会話をすれば、梨果は社会的な地位や資産だけではなく、翔本人に興味を持つ。外見も内面もステータスも引っくるめて完璧な翔を、あの姉が気に入らないはずがない。
「俺が相手にするわけないだろ」
「でもお姉ちゃん、本当に可愛いんですよ? 妹の私から見てもすごく美人で可愛いし、女子力も高いし……!」
そして梨果と近付いたとき、翔の心が揺れないという保証はない。普段から薄いメイクにストレッチパンツとシャツ姿で家事をしている美果が、梨果の可愛さや女子力に勝てる自信もない。
だから梨果と翔の接近を避けたかった美果だが、翔は美果の不安を否定するように呆れたため息をつくだけだ。
「どうでもいい。俺は美果の興味を引くのに必死で、他の女に構ってる暇なんてない」
「そ、それだけじゃないんです」